セラーオ、ナポリへの愛憎
《作家と心の風景》 メルカンティ通り
世の中には好きになればなるほど余計に、相手をいじめたり、悪く言ったりする人がいます。マティルデ・セラーオ(1856-1927)のナポリに対する思いもまた、それに似たものではないでしょうか。
セラーオは『愛よさらば』『恋人たち』『恋する女たち』などでさまざまな男女の恋愛を語る文学者ですが、一面、社会に対する男顔負けの批判精神も備えた骨太の批評家でもありました。彼女は生涯のおりおりに第二の故郷ともいえるナポリの街や人々について、辛辣なエッセイを書いています。「メルカンティ通りときたら、空は7分の1しかなく、暗くて硫黄の匂いに満ちている。」「カラッチョロ通りの人々は仕事にありつけず怠惰でカード遊びばかり。」しかしその溢れんばかりの憎悪と悪態を読むと、言葉とは裏腹のナポリに対する、その生活感と活気に満ちた大通りと路地、そこで暮らす貧しいナポリターノに対する、これまた溢れんばかりの愛着とシンパシーをはっきりと感じとることができるのです。
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