トムバーリの短編小説
ファビオ・トムバーリ、
あるいは過激な
ハッピーエンド
今度の翻訳ではおもに『イタリア夜想曲 Notturno Italiano 』収載の作品を選っているが、こればかりだと偏るので別の単行本から何作か選んで読んでいる。
そこで思い出したのが27歳の時に Lecce 滞在時に読んだ Fabio Tombari (1899-1989) の短篇「けむに巻く Mio padre repubblicano 」。
トムバーリは『 御宿ナイアガラ Pensione Niagara 』1969年 から選った「復活祭まで」を処女翻訳集『青の男たち Gli uomini blu 』に収録しているが、このたびのものは『 家族全員 Tutti in famiglia 』1980年 からのもの。
このたびあらためて読み返して見ると、内容を鮮明に覚えていて、これは怪奇幻想に入れるべきだと思った。
じつはこの短編は怪奇幻想ではない。そのような奇怪な出だしで始まっているものの、中盤は政治小説に代わり、最後は心温まるヒューマンな結末を迎える。
そもそもこの作家はモラリストであり、どのような不快な情況も最後には水戸黄門的なマニエリスム的な爽やかな解決で締めくくる。読んでいて読者が気恥ずかしくなるほどのあり得ないハッピーエンド。
ちょっと迷ったが、短いテキストにこれほど激しい展開を自然に盛り込めるのはやはり名品だと思いなおし、イタリア的な内容でもあることからリストに残すことにした。
ちなみにこの作家は僕のもの以外は未邦訳で、イタリアでももう忘れられた存在かも知れない。
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