古代コインのバンカーズ・マーク
《コインが語るローマの歴史》 バンカーズ・マーク
二枚のコインを見てください。表面に傷があるのがわかりますが、これはあやまって付いたものではなく、古代の検査員がわざと付けた、テストカット、またはバンカーズ・マークと呼ばれるものです。
古代のギリシャ・ローマ銀貨(金貨)には当時からたいへんな信用がありました。それはその貨幣に、使用された金属の2倍前後の価値があったことからも明らかです。貨幣を製造する職人も、誇りを持って製造していました。職人の家名が刻まれる共和政期のコインを俟つまでもなく、金・銀の含有率をごまかしたり、美的に粗悪な貨幣を世に送り出すことは、その家名を汚すことになると考えていたからです。
周辺の蛮族は、信用の高いローマコインのイミテーションを当時から作っていました。それは質的にも粗悪なもので、貴金属の含有率も低く、デザインもいい加減でした。とはいえ、ローマの役人も贋金をそのまま放置しておくわけにはいかず、テストカットによって真偽を確かめたのです。
最後の図は、いま言った、蛮族によって製造されたコインです。アントニヌス・ピウス帝を模したコインだとわかりますが、肖像の表現は稚拙で、スペルも間違っています。こんにち、テストカットのあるコインはやはり収集家には人気がなく、比較的安価で入手できます。しかし、蛮族の作った偽物のほうはそれなりに歴史的価値があり、イミテーションながら、思わぬ高値で取り引きされています。
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