野獣、リナ・フォルト

戦後間もないころのミラノ。サン・グレゴリオ通り四十番地で、三十一歳のリナ・フォルトが、恋人の不在に乗じて、三十五歳の「織物業商人」として知られるジュゼッペ・リッチャルディのアパートに上がり込み、アイロンで殴りつけて恋人の家族全員を虐殺しました。

当時、イタリアじゅうをパニックに陥れた、イタリアの犯罪史に名を残すこの事件に深甚の関心を抱いたディーノ・ブッツァーティは、事件発生の直後から取材を開始し、ほぼ毎のように日新聞に記事を発表します。

5年のインターバルを経て裁判が始まると、作家は足しげく裁判所に足を運び、公判の様子や裁判所の雰囲気、裁判官や弁護士、殺人鬼、犠牲者遺族、聴衆の動向を、一瞬も逃すまいと克明に描写して記事にしました。

のちに「サン・グレゴリオ通りの野獣」と名付けられたこの凶悪犯罪を、ブッツァーティは彼らしい丁寧さ執拗さで描き、のちに長編のルポルタージュ作品「リナ・フォルト、またはサン・グレゴリオ通りの野獣」としてまとめました。

*    写真はそのカテリーナ・フォルトに言い渡された判決を報じる当時の新聞《コッリエーレ・デッラ・セーラ》の記事。故あって少し加工しています。

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