ブッツァーティ、最後に見た景色
《作家と心の風景》 ドロミーティ峡谷
「地霊が姿を消してしまったこと。それはドロミーティ峡谷にとって計り知れない損失だった。」ーとディーノ・ブッツァーティ(1906-1972)は最初期のエッセイに書いています。
イタリアのカフカと呼ばれたブッツァーティは生涯ミラノで仕事をした作家でしたが、故郷のベッルーノを愛し、ドロミーティの見える自宅で多くの著作をものしました。この山について書かれた図書も四冊あります。フェリーニと組んで映画に舞台に絵画にと八面六臂の活躍をした彼でしたが、脂の乗り切った60代に死病を得て入院。
死を悟って書いた最後の自伝小説にも、やはりドロミーティ渓谷が登場します「オッタヴィオ・セバスチャン」。登場人物は最愛の母を失くし、家財を失い、死の影におびえて街をさまよいますが、その死後、最後に見た光景がこの峡谷だったのです。夕日に燦然と輝く連峰の頂を目にして、主人公=作家のたましいはようやく安らぎを得ることができました。
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