パピーニの棺
いまでこそ本国でも忘れられた存在だが、ジョヴァンニ・パピーニ(1881-1956)は生前、イタリアにおける偉大な頭脳であった。かのホルヘ・ルイス・ボルヘスを夢中にさせ、若きミルチャ・エリアーデにいたっては、わざわざ自宅まで訪ねさせ、教えを乞わせしめるほどの思想家、小説家であり歴史家であった。
そのパピーニの棺が生まれ故郷フィレンツェの郊外にある。花の大聖堂を見下ろすミケランジェロ広場の奥、ポルテ・サンテ墓地の入口に、他の墓所と離れて、ひっそりと置かれているのだ。
フィレンツェに住んでいたころ、よくこの墓地を訪れてパピーニの墓に参詣した。パピーニの名前は知っていたが、彼の作品を原書でも翻訳でもなかなか読む機会がなく、というかボルヘスの編集による『逃げてゆく鏡』以外は入手すら困難で、これまでにこの短編集のほかには古書店で入手した『わが最後の言葉』しか読んでいない。
未来派に傾倒したパピーニだが、晩年はキリスト教を深く信仰し、『イエス・キリストの生涯』などいくつかの宗教思想書も書いている。日本でも戦前は少なくない数の翻訳が出ていたことが邦訳書目録などから確認できる。
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