女優&作家


ゴリアルダ・サピエンツァ

(シチリア・カターニア 1924-1996)

以前、僕はアンソロジーの中からとても風変わりな短編を拾って翻訳・発表したことがある。「流れのままに」と邦題を付けたその作品には主人公である少女を悪の道へとみちびく不良の日本少年が登場する。

実をいうと僕は、ゴリアルダの二度目の主人から出版社を通して手紙を戴いたことがある。「流れのままに」について作家に問い合わせたときだが、僕の質問は本人には届かず鰥夫になったご主人の読むところとなった。

ご主人の手紙には「妻ゴリアルダは二年前に亡くなりました。」とあった。そして「短い作品なので著作権料は必要ありません。それにしても、あなたは妻の多くの短編の中から、じつにユニークなものをお選びになりましたね。」

このたび邦訳した「蜜蠟の像」は若き日の作家を彷彿とさせる少女の物語だ。主人公もまた、ゴリアルダとおなじくほっそりとした美人で、16歳の時に奨学金を得て王立舞台芸術アカデミーに入学、女優としての一歩を踏み出す。

天才的な記憶力をもつ女優。一つのポーズを完璧なまでに美しく決める彼女は、この夜舞台の上で、観衆を前にして意表を突く行動に出る。―—

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