トリエステの難民

マリーサ・マディエーリ・マグリス(1938-1996)はクロアチアのエリカで生まれ、

トリエステに移民として移住した作家である。1949 年イストリア半島を追放され

て一家でトリエステまで逃げ延び、難民キャンプで何か月も過ごした。このことは

彼女の最初の小説『みどり色の水』(1987)のなかでじぶんの出自を探るように語

られている。彼女はフィレンツェで外国語と文学を学び、作家クラウディオ・マグリ

スと出会って結婚、二人の息子をもうけた。夫のクラウディオは彼女の死後『ミクロ

コズミ』でストレーガ賞を、『手探りで』でトマジ・ディ・ランペドゥーサ国際文学賞を

授賞することになる、現代イタリアの最も重要な作家の一人である。マリーサ・マデ

ィエーリはこのほかに短編集『寄せ集め』(1992)を出版している。


収録作品「四月」は『一滴のものがたり』(1990)から選った一篇。長距離バスのなかでみ

かけた移民と思われる妊婦とその若い夫に、子どもを授かることなく老いてゆく

中年女性の悲哀を重ね合わせて描き出した、掌編ながらもしみじみとした味わい

のある傑作である。


写真はマリーサ・マディエーリが救急病院のボランティアのために患者搬送用機のパイロットの免許を取得したときのもの。

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